2013/11/25

『痕』1996年版と2002年版のテキスト比較

  『痕』のテキスト比較。


  『痕』(Leaf、1996)は、2002年に「リニューアル版」が発売された。これは、物語の大筋は踏襲しつつもCGやテキストを新たに描き(書き)直したものである。水無月徹によって描かれていた一枚絵は、1996年版の構図をおおむね維持しつつも、同じ人物の手で新たに描き直された(――全てが完全に同一構図のままというわけではないし、また、1996年版では一枚絵の存在しなかった箇所にも新たなCGが追加されている)。テキストも同様に、元作品で脚本を手掛けた高橋龍也が、文面を完全にリライトしている。これは文体自体を完全に入れ替えた「書き直し」であって、1996年版のテキストで使われていた文言は、2002年版でそのまま使われているものはほとんど無いと言ってよいほどである。

  これと同じように、CGを(基本的には同じレイアウトを維持しつつ)全て描き直したリメイク版としては、『MAID iN HEAVEN』がある。1998年の初版に対して、2005年に発売された『MAID iN HEAVEN SuperS』では、ゲームの枠組みは踏襲しつつも、CGは全て描き直されている。どちらも原画担当(およびCG監修)はキリヤマ太一であり、7年の間のイラストレーターの変化が如実に表れている。


『痕』 (c)1996/2002 Leaf
(図1:)同一場面の比較画像。1996年版は、いささか生硬ながら饒舌で勢いのあるテキストであり、その饒舌さはとりわけ地の文で発揮されていた。それに対して、2002年版では会話文に強く傾斜し、よくこなれた文章になっている。/1996年版でも独自フォント(「リーフオリジナルフォント」)が使われていたが、2002年版でも洗練された独自フォントが使用されている。
(図2:)このように動きの無いシーンでも、2002年版のテキストは適切に刈り込まれており、話の要点と情景の要点がクリアに描き出されている。/画像部分(イベントCG)についても、レイアウトとポーズの概略は同じであるが、実際にはまったく別もののような印象を与える(――16色画像とHigh Color画像の違いももちろんある)。
(図3:)脚本上の変更点もある。理性を失わせる邪悪な遺伝的体質によって人間的善性を奪われてしまった悪役を前にして、主人公が投げかける言葉は、1996年版と2002年版とで大きく趣を変えている。この場面の台詞の変化は、作品全体の印象をも決定的に変化させている。