2013/10/10

FAVORITEの表現様式・再説

  主に『ウィズアニ』『はぴマ』について。


  ブランドとしてのFAVORITEは2009年の『星空のメモリア』によって知名度を大きく伸ばしたようだが、私としてはそれに先立つ『ウィズ アニバーサリィー』(2006)と『はっぴぃ☆マーガレット!』(2007)の2本の方が好きだし、そしてそれらの方がはるかにユニークな表現世界を作り出していたと思う。

  【 『ウィズ アニバーサリィー』のばあい 】
  舞台設定(の、とりわけ背景画像の視覚的造形によってもたらされる魅惑)が作品全体の魅力を牽引するという現代(白箱系)AVGの主流派スタイルは、800*600解像度時代の到来を待たねばならなかったが、例えば『空色の風琴』(THE LOTUS、2004年)の創意に富んだ異世界風景や『南国ドミニオン』(ソフトハウスキャラ、2005年)の無人島の鮮やかな背景美術、『カルタグラ』(Innocent Grey、2005年)の重厚な建築物表現のような刺激的な試みもあったとはいえ、この『ウィズアニ』こそは白箱系の歴史の中でそのアプローチを普及させる一翼を担ったタイトルだったと考えている。いささか流れの良くないテキストワークや、全体構成の重たさにもかかわらず、少なくとも私個人にとって「AVG表現において美が果たし得る役割」の可能性についての考えを大きく進めてくれたタイトルになった。空を飛ぶ魔法使いたちというモティーフ選択も、FVP(Favorite View Point)エンジンの機能性と表現力――PCアダルトゲームにおいて十分な水準の低速ズーミング/スクロールを最も早期に実現したトップランナーに含まれる――によって成功を収めており、高速移動や浮遊状態を楽しげに表現している。

  【『はっぴぃ☆マーガレット!』のばあい】
  他方で『はぴマ』は、演出論Ⅲ-2-2でも述べたとおり、画面全体のカメラワークと役者たち(立ち絵)のポジショニングとの間の高度な絡み合いによる会話劇の洗練という観点で、今なお傑出した存在である。多人数会話の中でその都度の発話者の立ち絵が画面内に次々にフレームインしてはフレームアウトしていく、その立ち回りの速度感と心地良さ。そして、瞬間瞬間に会話の焦点がシフトしていくのに応じて、背景画像表示も立ち絵の位置に対応して的確に追従していく。つまり、たとえば画面左に発話者立ち絵が現れれば背景画像も左側に軽くスライドし、あるいは奥にいるキャラクターが発言する瞬間には背景画像もズーミング&フォーカス変化する。これはAVGにおける(擬似的な)カメラワーク表現と見做すことができ、そしてこのような操作によって、話題の焦点移動が画面全体の焦点移動としても表現されることになる。ここでは背景画像は、ただ単に抽象的にその場のロケーションを表示する書き割り背景に終わるものではなく、広がり(横)と奥行き(縦)のある舞台空間としての機能を発揮している。このような演劇的空間表現は、前作『ウィズアニ』でも大胆に試みられていたものであり、また『あかときっ!』(Escu:de、2010年)の空間戦闘表現のような他社作品の実例もあるが、私見では『はぴマ』こそはこのスタイルを最も華麗に(そして比較的早期に)展開した作品の一つだった(――なお、これについてはFAVORITEブランドの美術設計についてでも画像引用とともに説明したことがある)。他のブランドを見ると、たとえばすたじお緑茶は立ち絵画像の複雑な移動/回転/拡縮操作によってさまざまな運動表現を行っているし、また近年のE-mote表現は立ち絵単体でのアニメーション振り付けを行っているが、それらに対してこの『ウィズアニ』『はぴマ』様式は、立ち絵-背景-カメラワークの三者の緻密な組み合わせとそれらの複合運動によってゲーム画面をドラマティックなものにしている。立ち絵のポーズ/表情のパターンも、当時としてはかなり多い部類であり、会話劇シーンをいっそう彩り豊かなものにしている。

  これらに比べると、残念ながら『星メモ』の画面構成と動的演出はいささか無難すぎるように見受けられた。この作品にもVFXの拡縮表現や多段階スクロール演出はあり、簡単なアニメーションSD絵も導入しており、また小道具類のチップ画像を縦横無尽に動かしたりはしているものの、その画面は総じて固定的なままであり、生気に乏しいものになっていた。惜しい。『星メモ』については、旧ブログの記事FAVORITEブランドのキャラクター着彩についての中で、ごく簡単に紹介したことがある。

  なお、舞台背景への注目がいつ頃からどのように興隆してきたかについては、別掲記事「公式サイトの舞台紹介について」を参照。